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〜 フランス音楽 〜

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ユーモアの作曲家達と共に

Musique françaiseDans la bonne humeur

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は「ユーモアの作曲家達と共に」と題するフランス音楽の真骨頂であるエスプリ溢れ、これぞフランス!と云える明るいコンサートを企画いたしました。“ユーモア”という言葉には含蓄があり、語源などを探りますとフランス語と英語の関係等も浮かび上がり、これまた興味深い歴史があるようです。重要な事はユーモア(humour)には精神性が不可欠で、只の滑稽さdrôlerie)とは区別される事です。さらにフランス人は平等主義から発する批判精神が旺盛で、バロック時代から人物を描くポートレート的音楽が盛んでした。それは近代のドーミエ(Daumier)の風刺画や、当時パリのカフェ・コンセールによく通ったロートレック(Toulouse-Lautrec)が女性を非常に写実的に描いた絵画等にもそれがよく反映されています。そういった意味で少々皮肉ながらも笑いを誘う巧みなユーモア心、それ故に“美”への敏感さ、そしてノスタルジックな哀感もたっぷり持ち合わせた豊かな人間性が、今夜の音楽の源泉となっていると言えるでしょう。プログラムは軽妙洒脱なエッセンスをふりまくフランセに始まり、諧謔精神の代表的作曲家サティー、鮮明な和声と自由な表現で生命感溢れる音楽のシャブリエ、そして二部は明快で都会的ウイットに富む側面、時にはメランコリックな響きが深く心打つプーランクの作品を組みました。フランス人的人生哲学にも心を寄せつつ、ユーモアを感じさせるフランス音楽を味わって頂ければ幸いです。

 

Prologue    プレトーク

「フランス音楽とユーモア精神」L’humour dans la musique français

今日私の語るテーマは今までの公演全てに関連があると言っても良いでしょう。フランス音楽に出ているユーモアの精神はどこから発しているだろうか?と考えるとまずユーモアとは聞いてニヤリとする類から、愉快で気が利いているもの、またジョークと言った単純なものから風刺的社会への批判等深いものまである。こういうフランス人が持つ特有なユーモア精神が音楽に現れているとすれば、私はフランス人の持つ特色2つを挙げることが出来ます。@分析能力が優れている事A感覚的で直観力の強さがある事。まず@は和声学(音のつながりと構成等)がフランスから始まった事や現在よく実施される「スタイル和声」はフランスに発した勉強方法である。それはバスの低旋律に合わせてドビュッシー風、モーツアルト風、ベートーヴェンワーグナーというように、どういう音でどういう手法、又どんな理由でそう聞こえるのか?を学ぶ、それはまさしく分析能力の優秀さが必要です。Aについては例えばラモーが作曲した「優雅なインド人」もペルシャやトルコ風でありながら直感的曲風を優先している事が挙げられ、これがもしドイツ人ならばインド哲学方面に目を向け深く探求するのでは?と考えられる。表面的というのではないがフランス人にとって、複雑な思いをさらけ出すのは野暮であるという傾向もあり、ユーモアをもって音楽表現する事には才能があると思う。例はサンサーンスの「動物の謝肉祭」にある動物の鳴き声や動きの描写、先人達作曲家の音楽引用でのユーモア精神、又ドビュッシーが直接引用したワーグナーのパッセージでの皮肉さ等、がある。そして今夜のプーランクの「ナゼルの夜会」についても、彼が過去の作曲家達のピアノ語法を研究しつくし完璧に自分のものとして消化した上で独特な表現が生まれており、ユーモア精神と共に作品を完成させている。−以上概略だが渡辺氏の作曲家としての興味深い見解が講話された―

 

渡辺 康(作曲家&評論)

 

フランセ

J. Françaix

 

◆ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ

Sonatine pour violon et piano

Pf.カザボン田島 三保子

Vl.松浦 有希子

 

 

第1楽章Vivace(敏速に)

第2楽章Andante(ゆったりと)

第3楽章Thème Varié主題と変奏

変奏T(ワルツのテンポで)―変奏U(ゆっくり)―変奏V(急に速く)―変奏W(華やかに)―変奏X(生きいきと)

ジャン・フランセの曲風は古典的フランス音楽伝統にラヴェルやシャブリエの近代和声を取り入れ、妙想的豊富な表現手段を持つ。素材の節約をモットーにスパイスを効かせたお洒落な味と明快なリズム、新鮮なハーモニー感が曲を華やかに彩り、ユーモア心をくすぐるような快さが人を楽しませる。この「ソナチネ」は1934年の作品で彼自身ピアノを自演した録音が存在する。スタッカートの多い1楽章は二つの楽器がテーマを素材に丁々発矢と音楽の遊びを展開する。2楽章は思い入れの強いヴァイオリンに対しピアノはゆりかごの思い出のように優しい、だが中間部に葬送のような歩みが一瞬顔を出す。3楽章は非常に独創的な表現でテーマを変奏させる。霧の中から出現するような主題、T.可愛いアンティーク人形のワルツを思わせる、U.郷愁的、V.プリズマ的リズム、W.民族風ダンスと遠ざかる景色、X.超軽快で多忙なピアノの上に皮肉にも、超ゆったりとヴァイオリンがのびやかにテーマを奏し、突如最後に二人が歩調を合わせ万歳!となる。W、X変奏はしばしジャズの雰囲気も挿入されている。 C.田島三保子 記

 

サティー E. Satie

◆エンパイア劇場のプリマドンナ

La Diva de L'Empire

◆さあ、ショショット

Allons-y Chochotte

 

 

Pf.加納 優子 Sop.酒井 伸代

◆「音楽界の異端児」サティは権威やアカデミックなものを嫌い、自分の音楽を芸術ではなく、優れた家具のように存在を意識させず空間の心地よさを提供する「家具の音楽」と呼んだ。伝統的な西洋音楽の技法にとらわれない彼のユニークな作品はドビュッシー、ラヴェルを始め多くの作曲家に影響を与え、現代音楽の祖として高く評価されている。1900年前後、サティは「黒猫」等のカフェ・コンセールの為にシャンソンを数十曲作曲したと言われているが、ほとんど楽譜は残されていない。今夜はその中からシャンソン2曲を歌う。

「エンパイア劇場のプリマドンナ」大きなグリーンナウェイの帽子の下から、ベイビーのような微笑みや愛くるしい笑いを、ため息まじりにふりまくビロードの瞳の少女。彼女こそエンパイア劇場のプリマドンナ。―後略―

「さあ、ショショット」ショショットを一目見るなり僕は彼女が気に入った。「僕のマスコットになる?」「いいわよ」「亭主になりたい」「じゃあパパに結婚を申し込まなきゃ」いいともショショット。さあショショット。ー中略― 次の日彼女は言った。「私息子が欲しいわ。モーツアルトを打ち負かすような息子が。ローマ大賞を取らせるために蓄音機を買ってね」9ヶ月後、僕は男の子のパパになった。「ああ、なんてこと!」と産婆が叫び妻はたずねる。「マダムどうかしたの?五体満足じゃないとでも?」「いいえ、でも見て。お臍の下にこんなリフレインが」いいともショショット。さあショショット。 ―以上― 酒井 伸代 記

 

シャブリエ. Chabrier

◆狂詩曲「スペイン」ピアノ・ソロ編曲版

Rhapsodie «España» transcription pour le piano

最初、法律家を目指していたシャブリエだが音楽に対する情熱が捨て難く、勤めの傍ら作曲とピアノの勉強を続けた。1877年・79年に2つのオペレッタを発表して好評を得て以来、音楽に専念するようになった。彼の華やかなピアノはサロンで、もてはやされた。またサロンで知り合った音楽家(ダンディ、デュパルク、フォーレ、マスネ、フランク)や画家(モネ、マネ、ルノワール、シスレー)から大きな影響を受けた。シャブリエの特質を最も表しているものはピアノ曲と言える。有名なものではブーレ・ファタスク、スペイン,絵画的小品集、ロマンチックなワルツ等がある。彼のピアノ曲はラヴェルに大きな影響を与え、ラヴェルの作品にはよく似たタイトルのものがいくつかある。その意味では「シャブリエはラヴェルの先駆者」ともいえるだろう。この“スペイン”は元々オーケストラの為の狂詩曲として作曲された。底抜けに明るい旋律と開放感に満ち溢れたリズム、地中海を思わせるような色彩に包まれた陽気な曲である。まさに私達の耳を楽しませる為の音符の組み合わせで書かれた曲と言えるだろう。― 菅原 美枝子 記―

 

Pf.菅原 美枝子

 

プーランクF. Poulenc  

 

オペラ「ティレジアスの乳房」より

extrait de l’opéra «Les Mamelles de Tirésias»

ナレーション:酒井伸代

◆あなた、もういや! Non Monsieur, mon mari !

「ティレジアスの乳房」は第一世界大戦中に詩人ギョーム・アポリネールが書いたもので妻が性転換し、夫が一日で4万人もの子供を産むという超現実主義戯曲。1944年にプーランクが作曲1947年パリのオペラコミック座で初演された。

第1場 (テレーズ) “あなた もういや”

あなた もういや   あなたは わたしを思うようにあつかえなくなるわ。

わたしはフェミニエストよ、フェミニスト だから男の権力を認めないわ

その上 おもいのままに行動したい 今まで随分永い間 男達の思うようになってきた― 中略 ―あなたはもう私を意のままにしなくなるわ。あなたがコネティカトで私を口説いたからといってザンジバルで私があなたに料理をつくらねばならない事はないわ《夫の声(ベーコンおくれと言っているんだけど!)》

聞こえたでしょ 彼は情事のことしか考えていない。

 

 

Pf.加納 優子 Sop.松崎 典子

まあ、私 ひげが生えてきたみたい 乳房がはがれるああ!飛び去っておしまい。私の弱さの象徴である鳥達よ 何ときれいなんだろう 女性の乳房とてもかわいい 可愛くて食べたいぐらいだわ ― 中略 ―私は自分をものすごく男性的だと感じる 私は種馬 頭からかかとまで雄牛になった。闘牛士になろうかな しかしわたしの未来を正々堂々と見せびらかさないでおこう。英雄よ 君の武器を隠しなさい そして君 私より男性的でない夫よ 好きなようにわめき通せばいい。松崎 典子 訳

 

♪私はフェミニエストよ 思いのままに行動したい  ♪ 乳房がはがれるああ!

♪私は自分をものすごく男性的だと感じる!

          

 

プーランク 

F. Poulenc

「ナゼルの夜」よりextrait de «Les soirées de Nazelles»

T前奏曲 Préambule 

 

Pf.竹中 勇記彦

U変奏曲 Variations Var.1分別の極みLe comble de la distinction Var.2手の上の心臓 Le coeur sur la main Var.3磊落と慎重とLa désinvolture et la discrétion Var.7不幸の味Le goût du malheur Var.8老いの警報L’alerte vieillesse 

VカデンツァCadence

WフィナーレFinale

 

「ナゼルの夜」

ミヨー、オネゲルを中心にオーリック、デュレ、タイユフェールらと共に、フランス6人組のメンバーとして活躍したプーランクが、1930年にスケッチしていたものを1936年に完成させた11の小品からなる組曲で、プーランクのピアノ曲では最も評価の高いものと言われている。トゥレーヌ地方のナゼルに魅惑的な家を持つプーランクの叔母リュナールの客間には、夜になると色々な人々が集い談笑を交わしたと言われる。プーランクもこの家をよく訪問しその会話にしばしば加わったらしい。プーランクは楽譜の冒頭に「この作品を作る変奏曲は作者がピアノの周りに集まった友人達の肖像を、ナゼルの田舎の長い夕べで即興演奏されたものである。我々は今日、序奏とフィナーレの間に置かれたそれら(肖像)が、夜、窓の開かれたトゥレーヌの客間での遊びを思い出させるかもしれない、と期待している」と書いている。

変奏曲とあるが、変奏される一定の主題は無い。言葉の乱用と思われる。今宵は楽譜に記載された省略可能な指示に準じ、以下3つの変奏曲を省き演奏する。(変奏曲W.思索の続き、変奏曲X.口車の魅力、変奏曲Y.自己満足)

竹中 勇記彦 記

プーランクF. Poulenc

フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、バスーンとピアノのための六重奏曲 Sextuor pour flûte, hautbois, clarinette, cor, basson et piano

第1楽章 Allegro Vivace (活発に、はやく)

第2楽章 Divertissement(嬉遊曲)

第3楽章 Finale (フィナーレ)

 

 

 

六重奏曲: ジャン・コクトーを精神的支柱に第一次大戦後パリで結成された集団が「6人組」と呼ばれ、プーランクもその中の一人である。代表作品には、オペラ「カルメル派修道女の会話」バレエ「牝鹿」、「2台のピアノのための協奏曲」、「フルートソナタ」、その他歌曲など多岐にわたる。6重奏曲はそんなプーランクを代表する傑作といわれていて、今日でも演奏される機会に恵まれた作品である。パリに生きる都会人の憂鬱や焦燥感、哀歓の交錯する人生模様をディヴェルティメント風タッチで描き出してる。5本の管楽器とピアノが演じるミニ・オペラのような作品である。―筧 孝也 記―

 

          

Pf.水村さおり Hrn桑原真知子 Fg.加藤恵三 Fl.筧孝也Ob.佐藤栄里子 Cl.竹内雅一

 

 

全員ステージ挨拶

        

最後にティレジアスの亭主役(松崎廣幸Bariton)の持つ風船が割れた瞬間!

そして2007年の世界平和を祈念!

 

 

 

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